近年、オルガノイドの作製・培養技術が普及し、様々な研究にオルガノイドが使用されつつあります。 オルガノイドは生体機能に近い状態で培養を行うことができるため、研究ツールとして非常に有用ですが、 その作製や培養には、これまでのがん細胞株とは異なる技術が必要になります。 そこで、当法人が実施しているヒト組織バンクから入手可能な腸管組織(がん患者由来)を用いて、 オルガノイドを作製・培養する技術を動画にまとめて、わかりやすく配信します。 是非とも、ご活用頂ければ幸いです。 (協力:株式会社ベリタス、STEMCELL Technologies Japan)

1.ヒト腸管オルガノイド作製の準備 → 動画

 
1 オルガノイド増殖用培地の調製 Complete Intesticult organoid growth medium (human)(製品コード:ST-06010
非がんの場合:Intesticult OGM human basal mediumにOrganoid supplementを1:1混合してcomplete 培地を調製する(抗生剤添加)。がんの場合:Intesticult OGM human basal mediumに1%BSA/F12/DMEMtを1:1混合した培地と Intesticult OGM human basal mediumにOrganoid supplementを1:1混合した培地の2種類を調製する。
2 Matrigel
前もって氷上で冷蔵庫内で前日から溶かしておき、少量ずつtubeに分注して凍結保存しておく。実験当日は必要な分だけ氷上で溶かしておく(画像)。
3 PBS
培養時に使用しないwellに添加するために使用する。
4 1%BSA/PBS
組織の洗浄に用いる(抗生物質添加)。
5 1%BSA/HamF12/DMEM with 15mM HEPES
組織の洗浄や器具表面を事前に湿らせておく時に使用する(抗生剤添加)。
6 Gentle Cell Dissociation Reagent (GCDR) (製品コード:ST-100-0485
組織から細胞を解離させるために使用する(室温)。
7 Y-27632
オルガノイドの培養開始時に使用する。10mMで調製し、小分けして凍結保存しておく。(1/1000添加で使用)
8 50mL 遠心管
組織試料の細切・洗浄・細胞解離に使用する。試料のサイズが大きいとき
9 15mL 遠心管
組織試料の細切・洗浄・細胞解離に使用する。試料のサイズが小さいとき
10 はさみ、ピンセット
組織試料の細切に使用する。乾熱滅菌しておく。
11 チップ (10, 200, 1000uL等
12 ピペットマン(10, 200, 1000uL等)
13 70µm strainer
15mL tube用 (試料が少ないとき)、50mL tube用 (試料が多いとき)
14 24well-plate(corning社製)
注意:ドームを保持できないメーカーがあるので注意。
15 ピペット(2, 5, 10, 25mL等)
16 陰窩(クリプト)のカウント用
血球計算盤、plate、dishなど、落とした液量全部のクリプトを顕微鏡下でカウントできればよい。
17 振とう機
陰窩を組織から剥離しやすくするため、GCDR液中で組織を振とうする。
18 廃液用ボトル
19 氷を入れたバスケット

2.ヒト腸陰窩の分離 (動画はタイトルをクリック)

タイトル 操作 ここがポイント
1 試薬類の準備 以下の試薬を氷上に置く。 Matrigel、1%BSA/PBS、1%BSA/F12/DMEM、Y-27632 遠心機(スイングローター式)を4℃に設定しておく。
2 24well plateの保温
3 がん・非がん組織の到着【動画】 組織の入ったチューブを安全キャビネットへ入れる。
4 輸送液の除去【動画】 組織を吸わないよう気をつけながら輸送液を吸引除去する。 組織を吸いとらないように注意してください。 輸送液が多少残っていても問題ありません。
5 組織の洗浄(1回目)【動画】 氷冷した1%BSA/PBSを添加(50mL tubeなら20mL)して 再懸濁し、組織を重力で自然沈降させ、上清を吸引する。 組織が浮かび上がるように洗浄液を加えます。 自然沈降してから上清を吸引します。
6 組織の洗浄(2回目)【動画】 上記5の洗浄操作を再度おこない、組織が乾かない程度に上清を 残して吸引する。 再度同じ洗浄操作を繰り返し、組織が乾かない程度に上清を 吸引します。
7 組織の細切【動画】 ハサミを用いて組織が5mm以下の断片になるよう切り刻む。 腸は切れにくいので、無理して小さくする必要はありません。 がんと非がんで器具(ピンセットとハサミ)を交換することを忘れないように注意してください。
8 上清の除去と細胞解離液(GCDR)の添加【動画】 細切した組織を重力によって自然沈降させ、余分な上清を 1000uLチップを用いて除去した後、Gentle Cell Dissociation Reagent (GCDR)を10~20mL添加する。 1000µLチップを用いて、組織を吸わないよう慎重に、できるだけ上澄みを除きます。残った液量によっては、GCDRが希釈されて効果が下がるので、GCDRの量を増やしてください(動画では15mL添加しました)。
9 振とう処理【動画】 中程度のスピード(-40rpm) のシェイカー上で振とうしながらインキュベートする。37℃で30~40分程度が目安。 遠心管の中の組織片が左右に大きく振れるように振とうさせてください。時間の経過とともに、組織がほぐれてくるのが観察できます。 振とう40 分程度で、組織がほぐれて上澄みにも濁りが見られます。
10 GCDRの除去【動画】 290 xgで5min遠心し、1000µLチップを用いてGCDRを除く。 1000µLチップを用いてGCDRを除きます。組織断片を吸わないよう注意してください。
11 陰窩(クリプト)の剥離【動画】 氷冷した1%BSA/F12/DMEMを2mL添加し、1mLピペットマンで20回しっかりとピペッティングし、陰窩を組織から剥離させる。 組織から陰窩がはがれるよう、しっかり上まで吸い上げるように20回ピペッティングしてください。チップが詰まるようであれば、先太チップや、2mLや5mLピペットなどを利用してみてください。
12 ストレーナー処理【動画】 新しい50mL遠心管に氷冷した1%BSA/F12/DMEMを5mL程度加え、遠心管を回しながら内部をpre-wetした後いったん液を除去し、70µmのストレイナーをセットする。11.の剥離液を70µmストレイナーに通して新しい50mL遠心管に回収し、さらに、氷冷した1%BSA/F12/DMEM 2mLでストレイナー上をリンスする。 ストレイナーをセットする前に、氷冷した1%BSA/F12/DMEMで遠心管を必ずpre-wetしておいてください。ピペットやチップも、必ずpre-wetしてから使用してください。ストレイナー上部に液がたまった場合は、時々ストレイナーをずらしたり揺らしたりして落としてください。氷冷した1%BSA/F12/DMEM 2mLでストレイナー上をリンスし、ストレイナー上に残っている陰窩を回収します。(2mL+2mL=4mLになります。)

3.単離したヒト腸陰窩からのオルガノイド培養 (動画はタイトルをクリック)

タイトル 操作 ここがポイント
13 陰窩(クリプト)の識別例【動画】 4mLから10µLを取り、micro well plate等にのせ、陰窩の数をカウントする。(カウントしやすいように液量は加減してください) 写真は、陰窩(クリプト)が含まれている集塊を囲っています。一部が少し暗く(黒く)見えます。singleになっていると陰窩かどうかの判断はしづらくなります。確実だと思えるものを数えて、数を算出しましょう。
14 剥離液中の陰窩の総数の決定 カウントした数/分取した液量 x Totalの液量=Total陰窩数 例) 4mLから10µLをとって、カウント数30個だった場合のTotalの陰窩数は、30個 /40µL X 4mL =3000個となります。
15 作製できるドーム数 50µLドームあたり1000個となるように、作製できるドーム数を計算する。 例) Totalの陰窩数が3000個だったら、ドームは3個作製できることになります。
16 遠心と上清の除去【動画】 サンプルを200xgで5min遠心し、ペレットを吸わないよう注意しながら上清を吸引する。
1%BSA/F12/DMEMに懸濁 (3ドームの場合)【動画】 チップを1%BSA/F12/DMEMでpre-wetし、例えば3ドーム作製する場合、1%BSA/F12/DMEMを 75µLとって再懸濁する。 チップは必ず氷冷した1%BSA/F12/DMEMでpre-wetしてから使用してください。3ドーム作製の場合、1%BSA/F12/DMEMを75µL (50µLx3ドーム÷2)添加してください。上清の除去が完全ではなく液が残っている場合は、最終的に75µLになるように、添加する1%BSA/F12/DMEMの液量を調整してください。 泡を立てないよう10回程度ピペッティングしてください。
17 Matrigelとの混合(3ドームの場合)【動画】 例えば3ドーム作製する場合、1:1になるように、氷冷しておいたMatrigelを75µL加え、泡が入らないように10回ピペッティングし、いったん氷冷する。 氷冷したMatrigelを泡が入らないよう注意しながら必要量を取ります。泡が入らないようにMatrigelと1:1で混合したらすぐに氷冷してください。
18 ドームの作製【動画】 37℃のインキュベータから、温めておいたプレートを取り出す。氷冷しておいた遠心管をとりだし、チップを1%BSA/F12/DMEMでpre-wetしてから50µLずつ取ってwellにおとしてdomeを作製する。ドームが固まるように、プレートを37℃インキュベータに入れて10minインキュベートする。 チップは必ず氷冷した1%BSA/F12/DMEMでpre-wetしてから使用してください。液を吸ったら、始めにwellの中央にチップの先端を付け、チップを真上に引きながら溶液を吐き出してください。操作に時間がかかるとゲルが固まりだすので注意してください。ドーム作製後は、プレートを速やかに37℃インキュベータに入れて、10分間インキュベートしてください。
19 培地の添加【動画】 室温にした下記指定の培地 (Y-27632 10µM添加) を750µL/well添加する。使用していないwellにはPBSを添加する。 非がんの場合:complete  Intesticult OGM(human) がんの場合:Intesticult OGM human basal mediumに1%BSA/F12/DMEMtを1:1混合した培地、と complete  Intesticult OGM(human) の2種類 Y-27632が入った培地をwellあたり750µL添加してください。また、培地はドームに直接当てないよう壁をつたわらせてゆっくり添加してください。使用していないwellにはPBSを添加してください。
20 顕微鏡下での確認 顕微鏡でドームを確認し、インキュベータに入れて培養を開始する。 陰窩以外の細胞や夾雑物が多く含まれているため、ドーム内部は暗くて見えづらいですが、時間の経過とともに、成長したオルガノイドが確認できるようになります。
21 培地交換 1日おきに培地交換をおこなう(Y-27632は添加しなくてよい)。 培地が黄色くなるようであれば、毎日培地交換してください。
22 継代へ